弦城センの備忘録

弦城センのお知らせやら活動報告やらをするブログです。

Before 6th night(1)

ノットセンシティ部の第6回のコラボでハロウィン台詞・声劇枠をやるにあたり、Twitter上で色々な形で宣伝してきましたがその一環で短編小説を書いておりました。

ここではTwitterだと字数制限があるので泣く泣くカットした描写の加筆や、ほぼ脳死状態で書いていたあまりに辻褄の合わない箇所の修正を繰り返した結果3000文字オーバーしてしまったものを載せていきます。

 

登場人物紹介

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※ハロウィン企画仕様の部員紹介

 

本文は続きを参照

 

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画像提供:白川

廃病院のベッドに横たわるキメラは、意識が沈みゆく中で二つの人影を見る。
一人は刀を背負ったおそろしく白い肌の男、もう一人はボロボロの白衣を纏い、刀を背負った男と同じく白い肌をした中性的な風貌の医者であった。
「なんとまあダサ……哀れな姿なのでしょうか」
医者は口を開くなり、キメラを見て大袈裟に憐んでみせる。しかし、「ダサい」と言おうとしたことは明白であった。キメラには反論する意思も力も無く、ただ気だるさだけが身体を支配している。
「さあ、手術を始めましょうか」
それは、キメラの意識が完全に沈み切る瞬間に聞いた最後の言葉であった。キメラは朧げながらも、何かが起こる予感を胸に秘めて目を閉じる。

 

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暫くしてキメラが目を覚ますと、頭が軽くなったような、それでいて今まで無かった力が身体の中に満ちている感覚がした。
「おめでとうございます、手術は成功です」
先刻見た医者が妖しく微笑みかける。その左頬には荒々しい縫い跡があり、笑うとそこに歪な皺が寄った。頬以外にも身体の至る所に皮膚をつなぎ合わせた跡があり、生者と見るには白すぎる肌と相まってそれが普通の人間でない――生ける死者⦅リビングデッド⦆であることを雄弁に物語っている。

 

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「手術……?俺になにしたの?」

「そうですね、悪魔に仕立て上げたってところでしょうか。マア、あくまで模造品に過ぎませんが」
悪魔と呼ばれた青年は不可解と言うように目を細めた。
「何のために?」
医者の姿をした死者はクツクツと笑う。闇に閉ざされた病室に白い肌がボンヤリと明かりに照らされるように、不気味に浮かび上がっていた。
「私は仲間が欲しいのですよ」
医者はゆっくりと振り向き、口を三日月の形にして歪に微笑む。男のようにも女のようにもとれる声が妖艶さを伴って、悪魔の耳に絡み付いた。
「生者も死者も、切って縫ってしまえば皆同じ……私は皆を救って差しあげたいのです!死に怯え、短い生を潰すくらいならばいっそ……一度死んでなんの不安も感じることなく悠久の時を生きるのが幸せではありませんか!」
医者は恍惚とした様子で、高らかに歌うように語る。模造の悪魔はそれを冷ややかな視線で見つめながら、内心で医者を「狂っている」と思っていた。
「おっと、申し遅れました。私は弦城セン……貴方は?」
模造の悪魔が「俺は……」と呟いた瞬間、何処かの研究施設で生物兵器として生み出され、自身が何者かも分からないままに「出来損ない」として捨てられた記憶が頭をよぎる。それは痛みを伴い、彼の胃をギュウと締め付けた。それと同時に、生み出された時につけられた名前が思い起こされる。
「ルシファー……と呼ばれていた、気がする」
恐る恐るといった様子で名前を口にした瞬間、それは昔からあったもののように確かな感触を得た。ルシファーと名乗った男が俯くと、長い睫毛が目にかかる。睫毛の下で仄かに赤みを帯びた瞳は、闇の中で微かに光を放ちながら揺れていた。
「ルシファー、ですか……いい名前ですね。悪魔と堕天使は限りなく近いものです、運命すら感じますよ!」
愉しそうに笑うと、センは一瞬にして表情を消す。そして次の瞬間には、口の端をニイと吊り上げて狂気じみた笑顔を作った。
「そうだ、貴方……私と一緒に来てください」
センは血溜まりのような澱んだ瞳の奥に、狂気と冷静さを湛えて言葉を紡ぐ。ルシファーは思わず一歩後ろに退いた。
「私に協力してくれませんか」
「何を、するの」
ルシファーの声は微かに震えている。センは穏やかに目を細めるが、ルシファーに安心感を与えるどころか隠す気のさらさら無い狂気が異様さを際立たせるだけであった。
「なあに、愉しいことですよ……」
センはねっとりとした声で「愉しい」を強調する。
「愉しい、こと……?」

ルシファーは喉に張り付いて掠れた声でセンの言葉を繰り返した。

 

(2)へ続く……